AISNeC始動——東京科学大学が掲げる AI for Science 拠点とは

2026年9月9日、東京科学大学(2024年10月に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合)の大岡山キャンパスで「AI-Science Nexusセンター(AISNeC)」の設立記念シンポジウムが開催された[1][2]。

東京科学大学が、なぜ今このタイミングで AI 基盤研究と AI for Science に特化したセンターを新設したのか。本稿では AISNeC の設立背景・目的・アプローチを整理したうえで、他大学の状況にも触れる。

AISNeCとは

設立の背景

米国・中国では大規模な研究体制のもとで AI 研究開発が進む一方、日本の大学は研究室単位での取り組みに留まり、組織的な連携が不足している。この結果、国際会議における日本の存在感低下や、待遇面での課題による若手 AI 研究者の海外流出が指摘されてきた。AISNeC は、こうした構造的な課題への対応として、2026年4月1日に設立された[1]。

目的

AISNeC が掲げる目的は、次の2つに整理できる。

  • Science of AI (SofAI):AI 基盤研究の強化
  • AI for Science (AI4S):科学分野への応用展開

AI for Science では、医療、創薬、材料、エネルギー、ロボット、数理などへの展開を掲げており、中でも、東京科学大学病院が持つ医療データを活用した医工連携 を重点分野として位置づけている[1]。

アプローチ

産業技術総合研究所と連携して開発した LLM(大規模言語モデル)「Swallow」や、GPU クラスタ「TSUBAME」、医療データを含む多様な科学データといった学内資源を統合した AI エコシステムを構築する。研究は、この TSUBAME を中核とする計算基盤のもとで進められる。

具体的な取り組みとして、以下を掲げている[1]。

  • 学内の AI 研究者を結集した大規模かつ組織的な研究体制の構築、包括的な産学連携の推進
  • オープンラボラトリとして、研究者が柔軟にチームを編成して協働できる環境の整備(AI 研究のハブ機能)
  • 若手研究者への支援強化、クロスアポイントメント制度を活用した研究・教育一体型の人材育成
  • 学部教育におけるデータサイエンス・AI 教育の統合、社会人のリスキリングを含む高度 AI 教育の展開
  • AI 倫理・知的財産・著作権・データプライバシーに対応する体制整備

シンポジウム概要

2026年9月9日のシンポジウムでは、文部科学省・国立情報学研究所・理化学研究所からの招待講演が行われた。国の政策実務や学術界の中枢機関からの参加は、AISNeC が一大学の取り組みにとどまらない位置づけを持つことを示しているだろう。また、Swallow の医療応用 や 生命科学研究の完全自動化 に関するメンバー講演も行われており、AI for Science への本気度がうかがえる[2]。

他大学に広がる AI for Science 推進の動き

AI for Science に向けた拠点整備は、東京科学大学に限った動きではない。2026年2月に文部科学省が公募した「AI for Science に不可欠な計算資源の戦略的増強」事業に、東京大学・北海道大学・筑波大学・九州大学 の計画が採択された[3]。4大学は連携強化のため、2026年6月に「AI for Science 推進に関する覚書」を締結した[4][5][6][7]。この覚書に基づき、4大学は次の取り組みを共同で推進する。

  • GPU クラスタを含む AI 研究基盤の高度化・効率的運用
  • AI for Science に関する共同研究の推進
  • システム導入・運用ノウハウの共有と標準化
  • AI for Science を担う研究者・技術者の育成
  • 国際研究機関との連携強化

また 京都大学 は2026年3月、材料科学・生命科学・数理物理学・情報科学などの分野を横断する「京都大学 AI for Science 総合研究推進イニシアティブ」を展開すると発表した[8][9]。多様な分野における AI 活用研究を横断的に結びつけ、推進することを目指している。

参考文献

[1] 東京科学大学,「「AI-Science Nexusセンター(AISNeC)」を設立」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.isct.ac.jp/ja/news/1exwhjh80qrp

[2] 東京科学大学,「新産業創成研究院 AI-Science Nexusセンター(AISNeC)設立シンポジウム」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.isct.ac.jp/ja/news/z2dvofqgp084

[3] 文部科学省,「「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強」の公募について」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/mext_00503.html

[4] 東京大学情報基盤センター,「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強事業に、東京大学の計画が採択されました」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.itc.u-tokyo.ac.jp/supercomputing/2026/06/10/post-1901/

[5] 北海道大学情報基盤センター,「「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強」事業の採択および4大学による覚書締結について」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.iic.hokudai.ac.jp/news/3240/

[6] 筑波大学計算科学研究センター,「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強事業に採択」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/news260608/

[7] 九州大学情報基盤研究開発センター,「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強事業の採択および4大学による覚書締結について」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.cc.kyushu-u.ac.jp/scp/notice/news/2026/597/

[8] 京都大学,「京都大学はAI for Scienceイニシアティブを展開します」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.research.kyoto-u.ac.jp/news/news20260311-2/

[9] 京都大学総合研究推進本部,「京都大学AI for Scienceイニシアティブの展開」, 2026, Accessed:2026-09-16., https://www.research.kyoto-u.ac.jp/ai4s-initiative/

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